大判例

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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)3840号 判決 1973年3月28日

原告

大堀宮吉

被告

互助交通有限会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し金一一三万三九二四円およびこれに対する昭和四六年六月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分しその一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  原告に対し、被告らは各自金二一一万八五四七円およびこれに対する昭和四六年六月一四日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(原告)

一  (事故の発生)

(一) 日時 昭和四五年九月一四日午前四時五〇分頃

(二) 場所 東京都中央区築地五の二先路上

(三) 加害車両と運転手 営業用乗用自動車足立5か二七二

被告 柳生之男

(四) 被害者 原告

(五) 態様 自転車に乗つた原告が、横断しおえようとしたところへ、加害車両が突入してきたもの。

(六) 傷害の程度 閉塞性頭部外傷、顔面打撲症、右大腿部打撲症、左頸骨複雑骨折、左膝関節血腫により約三ケ月入院、加療を要する重傷を負つた。

二  (責任)

被告互助交通は、本件加害車両を所有し、自己のため運行の用に供しているから自賠法三条により、被告柳生は前方注視義務違反および制限速度超過等の過失があるから民法七〇九条により、各自責任がある。

三  (損害の発生)

原告は本件事故による損害金として、金二、一一八、五四七円を請求する。

その内訳

(一) 入院治療費残額 八六八、三〇〇円(内被告互助交通支払の既払分五〇万円)

(二) 付添婦支払分 九三、八七〇円

(三) マツサージ代 一一、五〇〇円

(四) 入院期間中雑費 七、八〇〇円

(五九日間入院)

(五) 通院に要した交通費 三、八二〇円

(六) 逸失損 一、〇三三、二五七円

原告は、有限会社相吉に勤務し、月額金八一、四七三円の給与を得ていたところ、本件事故により九ケ月間休業した。

その間の給料損七三三、二五七円、および昭和四五年一二月賞与分一五〇、〇〇〇円、昭和四六年七月賞与分一五〇、〇〇〇円。

(七) 慰藉料 五〇〇、〇〇〇円

三ケ月入院、三ケ月間通院、三ケ月間休養、六四歳の高令のため胃腸障害を併発する。

(八) 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

四 よつて原告は被告ら各自に対し、二、一一八、五四七円也およびこれに対する昭和四六年六月一四日(弁済期が最後に到来する四六年六月給料分)から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五 被告らの過失相殺の主張を否認する。

原告は約四〇年間にわたり中央卸売市場で働いているもので事故現場付近はいつも通り馴れているところである。原告は注意深い性格で慎重に自転車を運転して、横断歩道手前で横断歩道に添つて右折し、道路端まで進行したところ、急に自転車の後尾を左横から激突されたもので、被告柳生の運転する加害車の速度は三〇キロメートル位は出ており、且つ同被告前方不注視があつたため本件事故に至つたものである。原告には飲酒していた事実はない。

(被告ら)

一  原告主張第一項の(一)ないし(四)の事実は認め、同(五)の態様は争い、同(六)の傷害の程度は不知。

同第二項の事実中、被告互助交通が加害車両を自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同第三項の事実はいずれも不知。

二  (過失相殺)

本件事故は被告柳生が東京中央市場まで客を乗せてきて市場入口の守衛所前で客を降し、そのままUターンして本願寺方向に向つて橋をわたりかけた時、本願寺方向より同じく橋の中央部を自転車で進行していた原告が低速度で進行を開始したばかりの加害車両の前方に加害車両の進路を妨害する様な態勢で斜より急に割り込んできた為、この様な原告あることを予想し得なかつた被告柳生が、原告が割り込んでくるのを目撃し危険を感じたので、接触を避ける措置をとろうとしたが、原告が加害車両の目前に迫つていたため何らの措置もとれないまま原告に接触したものである。

本件事故は原告が飲酒していたことと東京中央市場に出入りしている原告の市場内をわがもの顔に進行する習慣による交通方法の常識を無視したことのため生じたものであり、原告の過失は大であるので過失相殺されるべきである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告主張第一項の(一)ないし(四)の事実および被告互助交通が加害車両の運行供用者であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕から、原告は本件事故により閉塞性頭部外傷、顔面挫創、左大腿部打撲症、左頸骨複雑骨折、左膝関節血腫の傷害を負い、昭和四五年九月一四日から同年一一月二六日まで八丁堀の三和会中央病院に入院し、昭和四五年一一月二八日から昭和四六年二月一二日まで同病院に通院(実日数七日)したほか、膝関節硬直による整復マツサージを受けたことが認められる。

そうすると、被告互助交通は自賠法三条により、原告の右傷害の結果によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで次に本件事故の過失関係について判断する。

〔証拠略〕によると次の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる確証はない。

(一)  本件事故現場の状況は凡そ別紙図面のとおりである。

(二)  本件事故現場は開港橋の中央卸売市場寄りのたもと付近であり、橋上および市場内は公安委員会の道路規制は行われておらず、早朝は人・車の出入は激しいが、市場の自主規制による警戒標識が設けられているにすぎない。構内の制限速度は時速一五キロメートルとされている。

(三)  被告柳生は加害車両に客を乗せ、別紙図面の市場入口のたもとにある守衛詰所付近で客を降ろし、市場内でUターンして、来た道を戻りかけ、通常Uターンしてから間もなくの走行速度である時速二〇キロメートルで進行したとき、別紙図面の横断歩道の橋側の付近を、右から左に横断する原告の乗つた自転車を発見し、危険を感じて急制動をかけたが及ばず、横断歩道から一~三メートル離れた地点において横断し切る寸前であつた原告の乗つた自転車に、加害車両左ライト付近を衝突させ原告を転倒させた。

(四)  原告は自転車に乗つて開港橋を渡り始め、市場入口から右手にある食堂脇にある空地に自転車を置きに行くため、開港橋を渡り切る直前をやや右斜めに横断したが、その際、後方から来る車両にのみ注意が向けられていたため、市場構内側から進行して来た加害車両に気づかず、前示のとおり、加害車両に衝突された。

右事実によると、被告柳生には前方不注視の過失があると認められる。けだし本件事故現場は市場構内とあるいはほとんど同視すべき場所であつて、一般の通行の用に供している場所ではなく、市場関係者、仲買人等の出入が激しく、又これらの者が一刻を争つて買出しをする場所であるから、このような場所に車を乗り入れて運転しようとする場合には、いわば手さぐりで行くように、歩行者程度の速度でのろのろと進行しなければならないと言うべきところ、被告柳生の運転、進行速度は、これらの特殊な事情を考慮した、いわゆる最徐行の速度ではなく、通常の走行方法であつたことが認められるからである。

もつとも、原告も、このような場所であつても車の乗り入れが全面的に禁止されている訳ではなく、構内とみられるにせよ、通常の橋上道路と同様な形状をしているのであるから、横断する場合には後方のみならず、対向車線上の車の進行状況を確かめて横断すべき注意義務があると言うべきところ、対向車線の車の走行状況に全く注意することなく横断した過失が認められ、これも本件事故の一因をなしていることが明らかである。

よつて被告柳生、原告の右過失、車種の相違その他諸般の事情を考慮すると原告に生じた後記損害につき、三割の過失相殺をするのが相当と認められる。

なお原告は横断歩道上に接するような地点を横断歩道に添つて横断した旨主張し、被告らは、橋上の中程から、極度の斜め横断した旨主張するが、いずれも前認定の限度を超えて双方の主張事実を認めるに足りる確証はなく、衝突地点についても同様である。

又被告は原告が飲酒していた旨主張し、被告柳生にそれに添う供述部分があるが、〔証拠略〕ならびに事故が早朝の午前四時五〇分頃に発生していること(当事者間に争いがない)に照らし、にわかに措信しがたい。

三  次に原告に生じた損害について判断する。

損害関係および数額を確定するための証拠ならびに認容額については別紙計算書記載のとおりである。

雑費については入院および通院の交通費等一日につき二〇〇円~三〇〇円程度の雑費がかかることは当裁判所に顕著であり、これに原告の前記入通院の日数を乗ずれば、原告の入院雑費、通院交通費の主張額の範囲を超えないので、原告の主張額をもつて相当と認められる。

休業損害については〔証拠略〕から認められる手取収入ならびに賞与不支給分を基礎に別紙計算書のとおり認める。なお前記入院通期間を見ると原告の休業期間は事故当時から六カ月間をもつて、本件事故と相当因果関係ある期間と認められる。

慰藉料については、前記原告の受傷部位ならびに入・通院の期間、本件事故の過失関係その他諸般の事情を斟酌して別紙計算書記載の金員をもつて慰藉するのが相当と認める。なお計算の都合上、過失相殺は弁護士費用を除く認容額を出した上で行うこととする。

弁護士費用については、原告が本訴追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、これに証拠蒐集の難易、被告らの抗争の程度、その他諸般の事情を考慮すると弁護士費用を除く認容額の一割程度に相当する金員は本件事故と相当因果関係にある損害として、被告らに請求しうるものと認められる。

四  よつて被告らに対し原告が主文掲記の金員ならびに叙上の損害の発生した後である昭和四六年六月一四日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

別紙 計算書

(1) 治療費 864,300円(成立に争いのない甲3の1ないし4弁論の全趣旨)

但し既払分50万円を含む

(2) 付添費 93,860円(成立に争いのない甲4の1ないし4原告本人尋問の結果から真正なものと認められる甲4の5.6)

(3) マツサージ代 11,500円(原告本人尋問の結果から真正なものと認められる甲5の1.2)

(4) 入院雑費 7,800円 (本文参照)

(5) 交通費 3,800円 (本文参照)

(6) 休業損害 760,040円(本文参照)

給与不支給分 230,020÷3×6=460,040(原告本人尋問の結果から真正なものと認められる甲9)

賞与不支給分 150,000×2=300,000(同甲10の2)

(7) 慰藉料 450,000円

(8) 過失相殺 3%

{(1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6)+(7)}×(1-0.3)=153万3,924円

(9) 損害の填補 50万円 (原告の自陳、但し治療費)

残額は103万3,924円となる。

(10) 弁護士費用 10万円

(11) 認容額 113万3,924円

別紙図面

<省略>

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